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関節弛緩を伴う脊椎骨端骨幹端異形成症2型の責任遺伝子KIF22の機能を解明 ~難病の病因解明に一歩前進~

令和6年8月1日
公立大学法人 九州歯科大学


【発表のポイント】

  • ●KIF22は軟骨細胞の分裂期において紡錘体の形成に必須である。
  • ●疾患の遺伝子変異によりKIF22の機能が低下する。
  • ●KIF22の遺伝子変異により成長板に存在する軟骨細胞の細胞増殖が抑制される。

 

【発表の内容】

骨が伸びるためには、まず骨の末端近くにある成長板と呼ばれる部位の軟骨が成長しなければなりません。成長関節弛緩を伴う脊椎骨端骨幹端異形成症2型(SEMDJL2)は低身長、四肢の低成長、顎顔面の形態異常、脱臼しやすい関節などの症状を有します。SEMDJL2患者ではキネシンファミリータンパク質(※1)、KIF22遺伝子の変異を認めることからKIF22の機能がSEMDJL2の病態に関わるのではないかと考えられていましたが、これまでその関連は解明されていませんでした。

 九州歯科大学 分子情報生化学分野の川上紘佳 大学院生、松原琢磨 准教授、古株彰一郎 教授を中心としたグループは、KIF22の機能を喪失した遺伝子変異モデルマウスを作製し解析を行いました。KIF22変異マウスでは脛骨の成長板の厚さおよび骨全体の長さが短くなっていました。そこで、KIF22変異マウスから軟骨細胞を採取し解析しました。すると、KIF22変異マウス由来の軟骨細胞では、細胞分裂する際に出現する紡錘体(※2)がうまく形成されないことがわかりました。そのため、KIF22変異マウス由来の軟骨細胞の増殖スピードは遺伝子変異がないマウス由来の軟骨細胞に比べ遅くなっていました。また、軟骨細胞の前駆細胞株(※3)ATDC5細胞(※4)に、SEMDJL2患者と同じKIF22の遺伝子変異を導入すると、やはり紡錘体の形成が起こらず細胞増殖が遅くなりました。これらの結果から、SEMDJL2患者ではKIF22の遺伝子が変異し軟骨細胞の分裂に必須の構造である紡錘体が正常に形成されないため、細胞分裂が遅くなり、結果として骨の伸長が妨げられることが考えられました(図)。SEMDJL2ではこのようなKIF22の機能異常により低身長などの病態を呈すると考えられます。

SEMDJL2の病態形成メカニズムならびにKIF22の機能を明らかにした本研究は、まずSEMDJL2の治療法開発に貢献できると考えています。さらに、KIF22は軟骨細胞に多く発現しており、増殖を制御することから軟骨をターゲットとした再生医療への展開も期待しています。

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本研究結果は米国東部時間の2024 年7 月19 日にCell Press が発刊する iScience 誌(電子版)に掲載されました。

 

【用語の解説】

※1 キネシンファミリータンパク質:細胞内でDNAやタンパク質などの輸送を担うタンパク質の一種。

※2 紡錘体:細胞分裂の際に染色体DNAを細胞の両極に移動させるための装置。

※3 軟骨の前駆細胞株:軟骨細胞になる直前の性質を保ったまま無限に培養できる細胞。

※4 ATDC5:代表的な軟骨の前駆細胞株の1つ。

 

【論文題目】

題名:KIF22 regulates mitosis and proliferation of chondrocyte cells.

著者:Hiroka Kawaue, Takuma Matsubara, Kenichi Nagano, Aoi Ikedo, Thira Rojasawasthien, Anna Yoshimura, Chihiro Nakatomi, Yuuki Imai, Yoshimitsu Kakuta, William N. Addison, Shoichiro Kokabu

論文雑誌:iScience誌

DOI:https://doi.org/10.1016/j.isci.2024.110151

 

【謝辞】

本研究は、日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C)21K09830、国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B)) 22KK0141、ならびに基盤研究(B)21H03144の一環で行われました。

 

【問い合わせ先】

九州歯科大学 分子情報生化学分野
准教授 松原 琢磨 (まつばら たくま)
E-mail: r15matsubara@fa.kyu-dent.ac.jp

プレスリリース資料(PDFファイル)

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