RNAの化学修飾が毛の生え変わりを制御するしくみを解明 ~METTL1によるRNAの安定化が毛包の成長を調節~

2026年9月29日
公立大学法人 九州歯科大学

 公立大学法人 九州歯科大学(キャンパス:福岡県北九州市、学長:粟野 秀慈)生化学分野の古株彰一郎教授、松原琢磨准教授は、中国・四川大学華西口腔医院のQuan Yuan教授らとの国際共同研究に参画しました。

 本研究では、これまで主にタンパク質をつくる過程に関わるRNAを修飾する酵素として知られてきたMETTL1(※1)が、毛の形成に関わる遺伝子のRNAを修飾して安定化することで、毛包の形成と毛周期を制御していることを明らかにしました。

 本成果は、RNAの化学修飾によって毛の成長や生え変わりが調節される新たな仕組みを示すもので、脱毛症などの病態理解や新たな治療法の開発につながる可能性があります。本研究成果は、2026年9月22日付で、国際学術誌『PLOS Genetics』に掲載されました。

【本研究発表のポイント】

  • METTL1を欠損したマウスでは、毛包(※2)の形成に異常が生じ、毛の再生が遅れる。
  • METTL1は、毛の形成に関わるHOXC13(※3)のRNAをm⁷G修飾(※4)して安定化する。
  • METTL1の欠損により、HOXC13、FOXN1、DSG4(※5)の発現が低下し、毛をつくる細胞同士の接着が弱くなる。
  • METTL1の発現を高めると、毛包の成長期への移行が早まり、毛の再生が促進される。

【九州歯科大学 生化学分野について】

 1952(昭和24)年に創設され、2017(平成19)年から現在の体制で新たにスタートしました。生命の最小単位である細胞が生物としてさまざまな機能を営む「しくみ」の解明に取り組んでいます。

【研究の背景】

 毛は一度つくられたら伸び続けるものではなく、毛包が成長期、退行期、休止期からなる「毛周期」を繰り返すことで、生え変わりを続けています。この毛周期が正常に進むためには、毛包を構成する細胞が適切に増殖・分化し、互いに結びつきながら毛を形成する必要があります。しかし、こうした毛包の形成や毛周期がどのような分子の仕組みによって調節されているのかについては、まだ明らかになっていない点が多く残されています。

 近年、細胞の中でRNAにさまざまな化学修飾が加わる「RNA修飾」が、RNAの安定性やタンパク質の産生などを調節する仕組みとして注目されています。METTL1は、RNAにm⁷G修飾を加える酵素で、これまでは主にタンパク質合成に関わるtransfer RNA(tRNA)(※6)を修飾することが知られていました。一方、近年ではMETTL1がmessenger RNA(mRNA)(※7)にもm⁷G修飾を加え、その働きを調節する可能性が示されています。しかし、METTL1によるRNA修飾が毛包の形成や毛周期をどのように制御しているのかは、明らかになっていませんでした。

【研究の内容と成果】

 九州歯科大学 生化学分野の古株彰一郎教授、松原琢磨准教授が参画する国際共同研究グループは、RNA修飾酵素METTL1が毛包の形成や毛周期に果たす役割を調べました。

 まず、成長後のマウスの皮膚でMETTL1を欠損させ、毛の生え変わりを観察しました。その結果、正常なマウスでは毛が再生していくのに対し、METTL1を欠損したマウスでは、毛の再生が大きく遅れることが分かりました(図)。詳しく調べると、METTL1を欠損した毛包では、毛が伸びる「成長期」への移行が遅れていました。このことから、METTL1が毛周期を正常に進める働きを持つことが分かりました。

 次に、その仕組みを調べたところ、METTL1を欠損すると、毛の形成に関わるHOXC13の働きが低下することが分かりました。さらに、METTL1はHOXC13のmRNAにm⁷G修飾を加えることで、このRNAを安定化していました。METTL1がなくなるとHOXC13のmRNAが不安定になり、その下流で働くFOXN1やDSG4も減少しました。その結果、毛をつくる細胞同士の接着が弱くなり、正常な毛の形成が妨げられると考えられました。

 これらの結果から、METTL1は、毛の形成に関わるHOXC13のmRNAをm⁷G修飾して安定化し、その下流のFOXN1やDSG4の働きを保つことで、毛包の形成と毛周期を制御していることが明らかになりました。本研究は、RNAの化学修飾が毛の形成や生え変わりを調節する新たな仕組みを示す成果です。(図:皮膚でMETTL1を欠損したマウスでは毛の再生が遅れる。正常なマウス(上段)では毛が再生していくのに対し、METTL1欠損マウス(下段)では毛の再生が遅れている。)

<図>

【今後の展開】

 今後は、この仕組みがヒトの毛包や脱毛症などでどのように関わっているのかを明らかにし、RNA修飾と毛の形成・再生との関係についてさらに研究を進めます。また、METTL1によるRNA修飾やその下流で働く分子を制御することで、毛周期を調節できる可能性を検討し、脱毛症などに対する新たな治療法の開発につなげることを目指します。

<生化学分野 古株彰一郎教授からのコメント> 

 松原琢磨准教授、Quan Yuan教授とは、約15年前に米国Harvard School of Dental Medicineで、ともにポスドクとして研究に取り組んだ間柄です。それ以来、それぞれ研究を続けながら交流を重ね、現在の共同研究につながっています。歯科大学で毛の研究を行っていることを不思議に思われる方も多いかもしれません。しかし、実は歯と毛は胎児期における形成過程が非常に似ており、発生学的に深い関連があります。実際に、歯と毛の両方に症状が現れる疾患も少なくありません。今回、「毛」をテーマに、長年の仲間との国際共同研究を一つの成果として発表できたことを、大変うれしく思っています。本研究にご助言とご協力をいただいた多くの皆様に、心より感謝申し上げます。(写真左:松原琢磨准教授、中央:古株彰一郎教授、右:Quan Yuan教授)

【用語の解説】

※1 METTL1:RNAに化学修飾を加える酵素の一つ。特に、タンパク質をつくる際に働くtransfer RNA(tRNA)に、m⁷G修飾を加える酵素として知られている。本研究では、毛の形成に関わる遺伝子のmRNAにも作用することが示された。

※2 毛包:皮膚の中で毛をつくり出す器官。成長期、退行期、休止期からなる「毛周期」を繰り返すことで、毛の成長と生え変わりを行う。

※3 HOXC13:毛包や毛の形成に関わる遺伝子。毛をつくる細胞の分化や、毛の構造を維持するために必要な遺伝子の働きを調節する。本研究では、METTL1によるRNA修飾を受ける分子として見いだされた。

※4 m⁷G修飾:RNAを構成するグアノシンにメチル基が付加される化学修飾の一つ。RNAの安定性や、RNAからタンパク質がつくられる過程などの調節に関わる。

※5 FOXN1・DSG4:毛の形成に関わる分子。HOXC13の下流で働き、特にDSG4は毛をつくる細胞同士の接着に関わる。本研究では、METTL1を欠損するとこれらの発現が低下することが示された。

※6 transfer RNA(tRNA):細胞がタンパク質をつくる際に、必要なアミノ酸を運ぶ役割を持つRNA。METTL1は、従来、このtRNAにm⁷G修飾を加える酵素としてよく知られていた。

※7 messenger RNA(mRNA):遺伝子の情報をもとに、タンパク質をつくるための情報を運ぶRNA。本研究では、METTL1がHOXC13のmRNAにm⁷G修飾を加え、その安定性を保つことが示された。

【論文題目】

題名: METTL1-mediated m7G modification regulates hair follicle cycle via the HOXC13/FOXN1/DSG4 axis
著者: Gan X, Li Q, Xiong Q, Huang D, Liu Z, Yin Q, Jiang S, Matsubara T, Kokabu S, Yan W, Yuan Q
論文雑誌: PLOS Genetics
DOI: 10.1371/journal.pgen.1012307

【謝辞】

本共同研究は、文部科学省・日本学術振興会 科学研究費助成事業 国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))、22KK0141の支援を受けて実施されました。

【問い合わせ先】

〇本研究に関するお問合せ先
九州歯科大学 生化学分野
教授 古株 彰一郎 (こかぶ しょういちろう)
E-mail: r14kokabu■fa.kyu-dent.ac.jp
※送信時は、■を@に置き換えてご送信ください。

〇本学の産学連携に関するお問合せ先
九州歯科大学 口腔医学総合研究センター
E-mail: research■kyu-dent.ac.jp
※送信時は、■を@に置き換えてご送信ください。

【公立大学法人九州歯科大学について】

 九州歯科大学は、全国にある歯学部、歯科大学の中で唯一の公立大学で、歯学科と口腔保健学科からなる「口腔医学の総合大学」です。私たちが考える歯学とは「口の健康」を通して、日々の生活を、幸せを支える医療です。歯学部並びに大学院歯学研究科において、歯学のプロフェッショナルの育成に取り組んでいます。また、併設する附属病院は1914年開設以来、地域に密着した歯科の専門性を持った中核病院として歩み続けています。

< 概 要 >
学校名  九州歯科大学
所在地  福岡県北九州市小倉北区真鶴2丁目6番1号
学長  粟野 秀慈
設立  1914年
HP  https://www.kyu-dent.ac.jp/